W杯で勝つには歴史が必要
サッカー元日本代表の中田英寿氏(37、山梨)が中心となり、サンパウロ(聖)市に期間限定でオープンした「nakata.net cafe(ナカタドットネットカフェ)」(現在は終了)。内装はカフェというより、スタイリッシュなバー。木目を生かしたカウンターには、和食の創作料理が美しく盛り付けられ、日本各地の日本酒が並ぶ。いかにも和風な空間を選ばないところにも中田氏のこだわりが見てとれる。同カフェオープンに先駆けて行われたレセプション開会直前、本紙のインタビューに応じた中田氏に、同氏の価値観やサッカーについて話を聞いた。(夏目祐介記者)
今回で来伯は10回ほどになるという中田氏。ブラジルへの印象を聞くと、「地方によって全く異なるため、一括りにはできない。サンパウロは急成長している大都市で洗練されているイメージがありますね」と語る。
その聖市でオープンした同カフェ。日本の食や文化の発信が主な目的だったが、中田氏が伝えたい日本らしさとは何か。
「僕は『らしさ』という言葉が好きではありません。なぜならそれは発信側が定義することではなく、受け取る側が決めることだからです」。そう前置きして同氏は続ける。「なので今回(のnakata. net cafe)も、僕が良いと信じた『日本』をブラジルに紹介していますが、正しいかどうかは分からない。足を運んでくれた人それぞれに判断してもらいたいです」
話題をサッカー・ワールドカップ(W杯)に移す。
まずはデモについて。W杯ブラジル大会も閉幕が近づき、幸い際立った惨事はまだないが、同氏は「デモは世界中どの都市でも行われるものだけれど、W杯でその話題が先行するのは残念。ブラジルの良いものを見せるチャンスなのに、外国人としては不安で、マイナス材料になるわけですから」と考えを述べた。
中田氏は現役時代3度のW杯に出場。ずばりW杯で勝つためには何が必要だと思うか。
「歴史ですね。過去の大会でも新興国が好成績を残すケースは多くない。W杯で上位を目指すには、経験を積み重ねて、自分たちの勝つスタイルを確立しなければならない」
同氏を取材したのはW杯開幕前。日本代表の選手たちが大会敗退後、「自分たちのサッカー」ができなかったと反省を口にしたが、同氏は戦う前からそれを実行する難しさを語っていた。
そして今大会の優勝国予想は、希望も込めてブラジルだ。「64年ぶりの自国開催での優勝は、ブラジルサッカーの歴史的にもふさわしいでしょう」
最後に、中田氏のサッカー界復帰の可能性を尋ねた。「今でもチャリティマッチなどで、サッカーとかかわっていますよ。でも根本的にサッカーは自分にとってプレーして楽しいもの。サッカーで金もうけは考えていないです。監督やコーチも含めてね」
日本祭りにも来場
文化知らせる活動に共感
7月4〜6日まで聖市で開催された第17回フェスティバル・ド・ジャポン(日本祭り)。主催の県連が目玉の一つと語っていたのが、nakata.net cafeの日本酒ブース出展だった。そして5日には、同祭りに中田英寿氏が参加。郷土食ブースにも足を運んだ。
中田氏はまず、同カフェブースに来場。日本酒「作(ざく)」を注文し、ブラジル人女性のスタッフにブースの様子を確認した。
両氏は互いに日本酒ソムリエの資格を有し、話題は専門的に。女性が「(同カフェに)参加して教えてもらうまで、冷蔵せずに日本酒を保存していました」と打 ち明けると、中田氏は「基本的に常温はだめですよ。そういうことをブラジルで伝えてください」と語りかけ、「再度伯国で同カフェを開催してください」とい う要望には、「(五輪が開催される)再来年には、リオでやろうと思っています」と答えていた。
しばらくすると中田氏は歩き出し、多くの来場客で混雑する中で向かった先は郷土食会場。偶然にも入場口すぐの場所には、同氏の出身地山梨県がブースを構えていた。
母県のメニューを確認すると、同氏は再び歩きだし他県の郷土食ブースもくまなく見て回る。各県の商品や行列の出来具合などを細かく観察し、時折「各県食べ 物以外は売ってはいけないのか?」「必ずしも特産物でないものも売っているけれど、その規制はないのか?」「各県以外にも出店しているがどんな団体なの か?」などと記者に尋ね、経費の増大等で厳しさを増す同祭りの状況説明にも耳を傾けた。
選手時代も引退後も、外国での生活は長い同氏だが、同祭りのような日系の催しはこれまで参加したことがなかったという。
一通り見終えると、最初に立ち寄った山梨県のブースに戻り、郷土食のほうとうを注文。口にした同氏は「麺がうどんだから、ほうとうではないな」と苦笑いし、同県出身者らしい感想を述べていた。
記者はnakata.net cafe一連のプロモーションに一つの疑問があった。聖市では最終的に黒字を目指して活動しているのか。これに対し中田氏は、「利益を上げるためにはやっ ていないですよ。というよりはっきり言って赤字です」と少し笑うと、表情を引き締めてこう答えた。「この日本祭りは利益目的で開催していますか?やること で日本文化を知らせて、将来へのモチベーションを保つためにやっているのですよね。それと同じです」
2014年7月9日付
